2013年5月2日木曜日

TPPと著作権法の非親告罪化

TPP参加で「コミケ」終了? 「二次創作」が罪に問われる可能性
http://snn.getnews.jp/archives/66960
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安倍晋三首相が今年3月に正式参加を表明したTPP交渉。これまで注目を集めてきた農業や保険・医療などの分野のほか、著作権など知的財産の分野も争点になると言われている。そのような中、ネット上などでは「TPP参加で、コミックマーケット(コミケ)が終了するのでは?」という議論もあるようだ。

その理由は、アメリカはTPPで「著作権法の非親告罪化」(著作権者の告訴がなくとも検察が起訴できる)を提案しているという情報があるからだという。今のところ交渉内容はオープンになっていないが、交渉のリストに入っていることは確実とされる。もし非親告罪化が実現すれば 、二次創作文化の一つである同人誌にも大きな影響があるかもしれない。

では、日本がTPPに参加して、「著作権の非親告罪化」が正式に認められた場合、同人誌の販売が犯罪に問われることはあるのだろうか。著作権問題に詳しい福井健策弁護士に話を聞いた。

●「オリジナルの作家とコミケは、ある種の『あ・うんの呼吸』で共存してきた」

「現在コミケは夏冬とも50万人規模の入場者と3万5千サークルもの参加サークル数があり、世界でも例がないユーザー発コンテンツの祭典です。主催者側の調査では、そのうち75%前後が多かれ少なかれ既存のコンテンツのパロディ的な作品だと言われます。」

こうした二次創作は、相当数が現行法では既存作品の無断『翻案』となり、仮に裁判となれば著作権侵害とされそうです」

つまり、現行の著作権法においてさえも、コミケに並ぶ二次創作物の多くは、著作者が持っている著作権の一つ「翻案権」を侵害している可能性があるというのだ。では、なぜコミケは堂々と開催されているのだろうか。

「これまでのところは、刑事摘発や紛争に至ったケースはありますが、必ずしも多くはありません。というのは、オリジナルの作家や出版界側には、『あれは原作のファン活動の延長だ』という意識があるからです。ある程度シーンを盛り上げる側面もあると思っている。

加えて、コミケから人気作家が生まれたり、現役の作家がコミケに参加するケースも増えてきた。ですから、黙認という程ではないのですが、いわば『放置』してきた。無論、行き過ぎがあれば怒る。つまり、プロ側とコミケ側は、ある種の『あ・うんの呼吸』で共存してきたとも言えそうなのです」

●検察の判断で起訴・処罰できるとなれば、現場では萎縮が進む可能性も

今のところ日本では、著作権侵害があった場合、著作者の告訴があって初めて検察が起訴することができる「親告罪」とされている。では、仮に、TPPに参加して、著作権が非親告罪化されることになると、同人誌を販売すると摘発されるということを意味するのだろうか。

「権利者が怒っていなくても、検察の判断で起訴・処罰できるとなれば、現場では萎縮が進みそうです。特に、特定の二次創作を不快に思う第三者が『告発』すると、警察もある程度動かざるを得ないかもしれない。

こうした危惧が、コミケに限らず、日本文化の特徴といえるさまざまな二次創作の場で語られ始めています。漫画家の赤松健さんは二次創作を守るための『黙認マーク』を提唱し、話題を集めました」

このように説明したうえで、福井弁護士はさらに、日本の「コンテンツ政策」を次のように論断する。

「一般に、『コンテンツ立国』『知財立国』というと、すぐに著作権などを強化する『知財強化』のことだと短絡されがちです。もちろん、海賊版対策など知財をきっちり守ることは大事です。

しかし、同時に大切なことは、日本の文化やコンテンツ産業の強みを正しく理解し、その土壌を壊してしまうような制度を安易に導入しないことですね。特に、TPPのような多国間の包括条約の場合、一度取り入れてしまうと、試行錯誤でやり直すということが事実上できなくなります」

このような問題を踏まえ、福井弁護士は「資源の少ない日本にとって、コンテンツ政策は死命を制する問題です。『日本の正解』を見据えた、タフな交渉が必要ですね」と付け加えた。

(弁護士ドットコム トピックス編集部)

【取材協力弁護士】
福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
骨董通り法律事務所 代表パートナー
弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部 客員教授。「著作権とは何か」「著作権の世紀」(集英社新書)、「契約の教科書」(文春新書)ほか知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。
Twitter: @fukuikensaku
事務所名:骨董通り法律事務所
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